心理カウンセラーに聞く、ゴミ屋敷の住人になりやすい人のタイプと傾向

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佐藤 栄子
心理カウンセラー

TVのドキュメンタリー番組でもたびたび取り上げられる「ゴミ屋敷」。TV番組では、悪臭や虫といった住環境汚染の被害を受けた近隣住人などから要請を受けた業者がゴミ屋敷からゴミを全て片付ける様子が映し出されています。

悪臭を放つゴミが自宅に山のように溜まっていたら、不快に思い、すぐさま片付けを始める人がほとんどです。しかし、なぜゴミ屋敷の住人は自らゴミを溜め込み、時にはゴミを片付けようとする業者にまで「(ゴミを)持っていくな」と、怒りをブツけるのでしょう? またどのような過程を経てゴミ屋敷の住人になっていくのでしょうか? 

そこで心理カウンセラーの佐藤栄子さんに片付けられない心理的な理由、どんな人がゴミ屋敷の住人になりやすいのか、ゴミ屋敷の住人になっていく過程、心理カウンセラーとしての解決法をお伺いしました。

片付けられない心理的な理由とは?

まず多くの片付けられない人に当てはまるのは「孤独」であるということです。孤独な人はガランとした場所にいると虚無感に襲われやすくなります。普通の人でも何もない空間にいるとあまり落ち着かないかもしれませんが、片付けられない人は特にその傾向が強いです。そのため、取り敢えず“物があれば気持ちが落ち着く”という状態に陥り、ゴミを溜め込んでしまうようになります。

また人間にはコンフォートゾーンというものがあり、孤独を感じやすい人はコンフォートゾーンが狭い傾向にあります。コンフォートゾーンというのは、個人がストレスや恐れ、不安を感じることがなく心地よく安心して過ごせる環境のことで、物理的な「広さ」という側面と心理的な「距離の近さ」の側面があります。

コンフォートゾーンの広さはどのようにして決まるかと言えば、個人の性格にもよりますが、成長過程の環境で決まることが多いです。例えば家族数が多く、常に周りに人がいる環境で育った人はコンフォートゾーンが比較的広いのですが、一人っ子だと一人でいる空間が当たり前な環境で育つため、狭くなりがちです。また兄弟姉妹が多くても、親に構ってもらえず寂しい幼少期を過ごした場合は自分の殻に閉じこもりがちでコンフォートゾーンが狭くなり、片付けられない人になることがあります。片付けられない人には「寂しがりや」だという共通点もあるのです。

どんな人がゴミ屋敷の住人になりやすいのか?

大きく分けて「孤独な人」「寂しさを強く感じやすい人」「自分に自信がない人」「いい人であろうとする人」「親が片付けられない人」「罪悪感を持っている人」「精神疾患を抱えている人」という7パターンがあります。ゴミ屋敷の住人には、このパターンにひとつ当てはまる人もいれば、複数当てはまる人もいます。

パターン1:孤独な人

まず孤独な人は、がらんとした空白が苦手なので、ゴチャゴチャと物を溜め込んでいき、最終的には足の踏み場もなくなってしまいます。伴侶に先立たれた高齢者もこのパターンに当てはまることが多いです。対人関係に何らかの不満を持っていて満たされていないケースが多く、ひとりで心理的葛藤を抱え、孤独を感じ、それをゴミで埋めようとしてしまうのです。

パターン2:寂しさを強く感じやすい人

寂しさを強く感じやすい人は、自分のことを「他人が一緒にいたいと思うような価値がない人間」と思い込んでいる場合があり、その思いがこじれてくると、「どうせ他人に見せるわけじゃないから汚くても平気。そもそも自分なんて素敵な生活をする価値がない」という思い込みに変化し、汚れた部屋に自分を置いておいても平気になってしまいます。ゴミだらけの部屋に住んでいても「自分にはこんな環境が似合っている」と自分を納得させてしまうのです。

パターン3:罪悪感を持っている人

物を捨てることに罪悪感を持っている人も危険です。「もったいない」精神が過剰でゴミを捨てられなくなってしまいます。そのような人は親から「ご飯を残すな」「タダならもらっておけ」などと言われ続けてきた人に多いです。そのため「物を捨てる→無くなる」ことに強い不安を感じてしまいます。

パターン4:自分に自信がない人

パターン2に通じますが、自信がない人も自分を粗末に扱ってしまい、ゴミを溜め込んでしまうことがあります。「自分なんて大したことがない」と、自分を大切に扱えないのです。大事な物は大切に扱いますが、どうでもいい物は粗末に扱ってしまいますよね? そのため、自分に自信がないと、自分をキレイな部屋に置く必要がないと思ってしまうのです。

パターン5:いい人であろうとする人

いい人でいたい気持ちが強い人の場合は、外出先や職場できちんとしている分、ストレスを強く感じます。そのような人は「キッチリしなければ」という意識が人一倍強いのです。人間はどこかでリラックスする時間が必要。しかし、外で気を遣いすぎると、家で何もやる気が起きなくなってしまいます。社会人だと職場でちゃんとしていれば、家の中は人に見せなくても済みますから、どんどん家が荒れていってしまうのです。意外かもしれませんが、普通以上にキチンとした対応を求められる職業で、職場では仕事をしっかりこなしている人がこのパターンに当てはまり、ゴミ屋敷の住人になることがあります。

パターン6:親が片付けられない人

親が片づけない人だと、ゴミ屋敷のような環境で育っているので、単純に片付け方が分からないこともあります。親元を離れて一人暮らしをしても、片付けができず、ゴミ屋敷の住人になってしまうのです。

パターン7:精神疾患を抱えている人

ゴミ屋敷の住人は精神疾患を抱えているケースもあります。認知症(*1)や統合失調症(*2)だと本人には精神疾患を抱えているという自覚がなく、正常な判断ができなくなってしまうのです。若年層の場合はADHD(注意欠陥/多動性障害)(*3)というパターンもあります。ADHDは衝動性が高く、計画性がありません。片付けを始めようとしても、すぐに他の物事に気を取られ、片付けを忘れてしまいます。それを繰り返すうちに、家がゴミだらけになってしまうのです。
この他にも、自分の意思で行動することをやめ、他人にも助けを求めなくなってしまうセルフネグレスト、行動する意欲がなくなってしまううつ病、物を溜め込むことに心地よさを感じる「貯蔵症候群」「ホーダー」「溜めこみ症候群」と呼ばれている強迫性貯蔵症の人がゴミ屋敷の住人になることもあります。

どのようにしてゴミ屋敷の住人になっていくのか

いきなりゴミ屋敷の住人になることはありません。最初はほんの少し「まあいいか」「誰も見ないし」と思っているうちに、いつの間にか物が積み重なり、片付けようという気力がなくなってしまいます。また片付けようと思っているときに、仕事が忙しくなったりと「心ここにあらず」の状態が続くと、ゴミ屋敷化しやすいです。部屋の状態は心の状態を表すことがあり、ゴミ屋敷の住人は、家の状態と同じように住人自身の心の中にもさまざまな思いが混在していて収拾がつかない状態だと言えます。

ゴミ屋敷の住人の心の中には「何でも良いので縋りたい」という気持ちがあります。ですから、家族や友人が強制的にゴミ屋敷にあるゴミを一掃したとしても、またゴミを溜め込んでしまい、根本的な解決に繋がらないこともあります。

大きな問題のない生活を送ってきた人でもゴミ屋敷の住人になることはあるのか?

男性の場合は高齢者の一人暮らしに多く、伴侶に先立たれ、家事経験が乏しいため、掃除や片付けができず、どうしたらいいのかわかないうちにゴミ屋敷になってしまうことがあります。女性の場合は、統合失調症のケースが多く見られます。統合失調症の症状として、「誰かに狙われている」「泥棒に入られた」といった幻想に悩まされ「自分の持ち物を守らなくては」と思うあまり物を溜めてしまったり、清潔に対して無関心になってしまうこともあり、そうなると本人に「ゴミ屋敷化している」という自覚がないまま部屋がゴミだらけになってしまうのです。

ゴミ屋敷に住人に対する心理カウンセラーの解決策

もしカウンセリングにいらしたら、最初にクライエント様(ゴミ屋敷の住人)の気持ちに寄り添いながら、よく話を聞きます。その上で、自分に自信がないのか、もしくは病気が原因となっているのかなどを探りながら、孤独になり始めた原点を突き止めます。中には地方から一人で都会に出てきて「地震が起きたときに助けてくれる人が誰もいない」「病気になったらどうしよう」といった不安や恐れが強くなり、物をゴチャゴチャ置くことで安心感を得ようとして、片付けられなくなってしまう人もいます。しかし、カウンセリングに来るということは、本人にも「おかしい」という多少の自覚症状があるのが救いです。

具体的な解決法としては、例えば、外で「いい人」でいて、ゴミを溜め込んでいる場合は、いい人をやめてもらいます。「いい人」をやめるというのは、「あえて悪いコトをする」ということではなく、たとえばまず朝起きたら「何が食べたい?」「今日は何がしたい?」などと自分自身に問い、本当に自分が何を食べたいのか、何をしたいのか心の声を素直に聞いて行動することです。そのようなことを繰り返していくと、自分の気持ちを大事にするという感覚がわかるようになっていきます。自分をどのように扱うかで、他人が自分をどう扱うかも変わってきますから、自分を大事に扱えるようになれば、おのずと周りからも大事にされるようになります。そうなると、ストレスが減ると同時に自尊心も育まれ「こんな自分ならキレイな部屋に住みたい」と思えるようになり、汚れた部屋を片付けたくなるのです。このように心理カウンセラーの仕事としてはクライエント様の「不安」や「心配」「恐怖」といった心のストレスを軽減し、自らを大切にしていただけるようになるサポートをしていきます。

本人が早いタイミングで「自分は少しおかしいかも」と気づければ、心の問題を解決すべく心理カウンセリングを受けることができます。しかし、本人にゴミ屋敷化している自覚がなく、ゴミに囲まれた生活に安心感を抱くようになってしまうと自らカウンセリングを受けるという発想自体がなくなります。信頼できる人や身内がいない状態で、ひとりでゴミ屋敷の生活から抜け出すのはなかなか難しい現状があるのです。

ゴミ屋敷は他人事ではない

少子高齢化が進む日本社会では、ゴミ屋敷はもうすでに他人の問題ではなくなっています。今後ますます単身の高齢者が増え、強い孤独を感じたり、精神疾患を抱えるなどして、ゴミ屋敷が増えていく危険性があるのです。それは日本の人口推計を見ても明らかでしょう。では、どうしたらゴミ屋敷の住人にならずに生きていけるのか考えていくと、ひとつの手段として、複数のコミュニティに所属することが大事だと言えます。家族もひとつのコミュニティですが、伴侶に先立たれたり、子どもが遠方に住んでいる場合、何か困った時に頼ることができなくなってしまいます。ですから、今のうちに趣味や好きなこと、地域などのコミニティに積極的に属しておいた方が安心です。意識的にコミュニティに属することによって、お互いの異変にいち早く気づくことができ、ゴミ屋敷の住人になる前に何らかの対処ができます。

また若年層でも自分の異変にすぐに気づいてもらえる環境を作ることが大事でしょう。そのためには、気のおけない友人や知人、家族などと普段からコミュニケーションをとっておくといいかもしれません。また少しでも自分の生活に違和感を抱いたり、体調に異変を感じたら、相談することも忘れないようにしたいですね。日本人は「恥」を恐れる傾向がありますが、時には恥を捨てて、人に相談することも大事。ゴミ屋敷の住人になってしまってから対処するよりも、早い段階で自分の心身の根本的な問題を明らかにし、対処した方が回復も早いからです。もし身近に心を許せる人がいない場合は、心理カウンセリングを受けるなど第三者に相談することをおすすめします。

ゴミ屋敷が社会問題となって久しいですが、「孤独感や欠乏感をこじらせてしまうこと」がその発生を増やしている場合が多いのです。過度な孤独感や欠乏感は精神を蝕むだけではなく、一説では体の抵抗力を下げるとも言われています。精神と身体両方の健康を保てるよう自ら心がけていきたいですね。

(*1)認知症

認知症とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態」をいいます。

つまり、後天的原因により生じる知能の障害である点で、知的障害(精神遅滞)とは異なるのです。 今日、認知症の診断に最も用いられる診断基準のひとつが、アメリカ精神医学会によるDSM-IVです。各種の認知症性疾患ごとにその定義は異なりますが、共通する診断基準には以下の4項目があります。

DSM-Ⅳによる認知症の診断基準

・多彩な認知欠損。記憶障害以外に、失語、失行、失認、遂行機能障害のうちのひとつ以上。
・認知欠損は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準から著しく低下している。
・認知欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。
・痴呆症状が、原因である一般身体疾患の直接的な結果であるという証拠が必要。

参考:http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html
(厚生労働省)

(*2)統合失調症

統合失調症は、幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患です。それに伴って、人々と交流しながら家庭や社会で生活を営む機能が障害を受け(生活の障害)、「感覚・思考・行動が病気のために歪んでいる」ことを自分で振り返って考えることが難しくなりやすい(病識の障害)、という特徴を併せもっています。

多くの精神疾患と同じように慢性の経過をたどりやすく、その間に幻覚や妄想が強くなる急性期が出現します。

新しい薬の開発と心理社会的ケアの進歩により、初発患者のほぼ半数は、完全かつ長期的な回復を期待できるようになりました(WHO 2001)。
以前は「精神分裂病」が正式の病名でしたが、「統合失調症」へと名称変更されました。

参考:http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_recog.html
(厚生労働省)

(*3)ADHD

ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

参考:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004/008/001.html
(文部科学省)

佐藤 栄子
心理カウンセラー

大学卒業後、某大手不動産会社に就職し約20年、主に役員秘書業務を担当
宅地建物取引主任者、秘書検定1級、CBS(国際秘書検定)取得。
秘書業務と並行して衛生管理者(第二種)の資格を取得後職場のヘルスケアを担当、多数の個別相談を受けるうちに心理学の知識の必要性を感じ、民間カウンセリングスクールで心理学全般を学ぶ。
会社を退職後、2008年12月より心理カウンセラーとして活動を開始。
2012年12月に全国統一認定資格 一般社団法人全国心理業連合会 上級心理カウンセラー試験合格。
現在法人3社からのカウンセリング業務委託及び紹介による個人カウンセリングを行っている。

大学卒業後、某大手不動産会社に就職し約20年、主に役員秘書業務を担当
宅地建物取引主任者、秘書検定1級、CBS(国際秘書検定)取得。
秘書業務と並行して衛生管理者(第二種)の資格を取得後職場のヘルスケアを担当、多数の個別相談を受けるうちに心理学の知識の必要性を感じ、民間カウンセリングスクールで心理学全般を学ぶ。
会社を退職後、2008年12月より心理カウンセラーとして活動を開始。
2012年12月に全国統一認定資格 一般社団法人全国心理業連合会 上級心理カウンセラー試験合格。
現在法人3社からのカウンセリング業務委託及び紹介による個人カウンセリングを行っている。

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