弁護士が答える!ゴミ屋敷トラブルをどのように解決する?

  • インタビュー
  • コラム
薩川智結
LM総合法律事務所 弁護士

もしゴミ屋敷が近隣にあり、悪臭や害虫に悩まされるようなことがあったら法的に解決する道はあるのでしょうか? そこで法律の専門家であるLM総合法律事務所の弁護士・薩川智結先生にゴミ屋敷の法的な罰則についてや実際に相談を受けたケース、行政代執行に基づくゴミの撤去についてお話を伺いしました。

ゴミ屋敷の法的な罰則について

ーーゴミ屋敷に対する法的な罰則はあるのでしょうか?

「基本的にゴミ屋敷に法的な罰則はありません。周辺環境が悪化した場合は、行政命令によって、ゴミを片付けることになります。各自治体によって要件は若干異なりますが、以下のようなケースがゴミ屋敷に当てはまります」

・人が居住している
・住居や敷地に物が体積・散乱した状態にある
・居住者や周辺住民の環境が著しく損なわれている状態

「このように、行政でも判定基準を要綱というルールで決めていますが、明確に何リットルのゴミが散乱していたら、ゴミ屋敷だというところまで明確な基準は設けられていないのです。

しかし、ゴミが敷地内から溢れ出し、道路にゴミがのっている場合は、道路交通法違反となり、行政が対応することになります。ただ、これは道路にある置き看板と同じで、周辺住民が行政に通報しないといけないケースがほとんどです。

また、私有地にゴミが入ってきた場合は、越境の問題となり、裁判に持ち込むこともできます。所有地の境界線がハッキリしていれば所有権の侵害となり、裁判で勝てる可能性も十分にあります」

ゴミ屋敷の悪臭や害虫の被害は立証が困難

ーーゴミ屋敷から悪臭の被害を受けている場合はどうなるのでしょうか?

「ゴミ屋敷の臭いは騒音とは異なり、計測が難しいため、法律上での対応は困難です。。最近、アパートやマンションのベランダでの喫煙問題が騒がれていますが、その場合はアパートやマンションの管理組合に伝え、対応してもらうことになります。通常、マンションやアパートの賃貸借契約書や入居者使用規約には“周辺住民に迷惑をかけない”という条項が入っています。契約違反となりゴミ部屋の住人を追放した事例もあります。問題なのは一軒家で、ゴミを撤去したり、住民を追放するのは難しいです」

ーーゴミ屋敷から発生した害虫の問題はどうでしょうか? 近隣にゴミ屋敷があるとゴキブリやネズミが発生して大変なことになると聞きます。

「おそらく行政内部で運用の基準は要綱などで決まっていると思いますが、細かいところは行政内でしかわからないことになりますね。ですが、たとえ行政がゴミを撤去したとしても、住民を追い出すことはできないので、再び、ゴミを溜め始めボヤ騒ぎになったこともあるようです」

ーーいわゆるゴミ屋敷について東京都世田谷区では以下のような条例が定められています。

“いわゆる「ごみ屋敷」対策について
住居や敷地内外に大量の物品を溜め込み、悪臭や害虫の発生、通行の障害等、居住者及び地域住民の生活環境に大きな影響を及ぼすような、管理不全な状態にある住居等が問題となっています。

こうした問題に対応するため、平成28年3月「世田谷区住居等の適正な管理による良好な生活環境の保全に関する条例」を制定し、4月に施行しました。

条例の対象となる「管理不全な状態」とは
条例では、(1)~(3)全てに該当する場合を「管理不全な状態」(いわゆる「ごみ屋敷」)と定義しています。

(1)現に、居住者が居住していること
(2)住居等(住居及びその敷地)に物品が堆積し、又は散乱した状態にあること
(3)居住者及び地域住民の生活環境が著しく損なわれている状態にあること

例:物品の道路等への崩落、流出、悪臭の発生、ごきぶり・はえ・ねずみその他これらに類する動物が群生しているなど

それぞれの責務
条例では、良好な生活環境を保全するために、居住者等、区の責務について規定しています。

居住者等の責務
居住者等(所有者、管理者を含みます。)は、住居等が管理不全な状態にならないようにするための適正な管理に努めなければならない。

区の責務
区は、住居等の適正な管理を居住者等が自らすることができるよう必要な施策を総合的に推進し、予防するための対策や管理不全な状態を解消するための必要な措置を講じるものとする。

区の取組み
問題の解決に向けては、居住者に対し必要な助言や福祉的な支援を行いながら、不要な物品の撤去や整理整頓などを促します。

また、やむを得ない事情により居住者が対応できない場合には、居住者に代わって、区が片付けや整理整頓などを行うことにより改善を図ることとしています。”

引用:http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/102/126/443/d00145089.html(世田谷区)

人が住んでいない場合はゴミを撤去できるようになった

「上記のケースは人が住んでいる場合ですが、人が住んでいない場合は、平成26年に“空き家の特別措置法”が成立して、行政が税金を使って、ゴミを撤去することができるようになりました。これは建物が崩れるなどの保安上の問題と衛生上有害になるため、所有者は必要な処置をしてくださいという法律になります」

実際に薩川先生が担当した、ゴミ屋敷に近い相続問題のケース

「相続でもめている間に、誰も家を管理しておらず、外壁に蔦が絡まったり、敷地に雑草が生え放題になり、相続者に行政から“家の手入れをしないと、空き家に指定しますよ”という通知がきたケースがあります。相続の問題は解決するまでに、長いと4〜5年かかることがあり、その間にゴミ屋敷と似たような状態になり、近隣から雑草を何とかして欲しい、誰かが勝手に入ったり、住み着いてしまったら困るという声が上がったようですね。そのため、相続者はすぐに草を刈るなど対応しました」

ーー今後、高齢化社会になるにつれて、空き家がゴミ屋敷化する問題は増えそうですね。

「この先、地方に両親がいて、亡くなり、都市部に住む相続者がなかなか実家の管理ができず、ゴミ屋敷のような状態になってしまうケースは増えそうです」

ーー廃旅館や廃病院がゴミ屋敷化していることがありますが、空き家としてゴミを撤去できないのでしょうか?

「ゴミ屋敷になってしまうのは一定数仕方ないかもしれません。土地が誰の名義になっているかによりますが、一応相続はされていると思います。とはいえ、負債が多すぎて、放棄している可能性もありますね。銀行が抵当権を持っていて、売りたくても、売れないケースもあるでしょう」

ーー他にもゴミ屋敷に関する相談を受けたことはありますか?

「ゴミが越境して倒れてきそうで怖いという相談を受けたことがあります。しかし、実際にはゴミが倒れて相談者の敷地内に入ってこないと対応がむずかしいです。そのため、もしゴミが倒れてきたら教えてくださいと伝えました。もしゴミ屋敷から自分の敷地内にゴミが倒れてきそうな場合は、それを写真や動画で撮っておくといいと思います。裁判になった場合、証拠があれば有利になります」

ゴミ屋敷から被害を受けている周辺住民ができる問題解決法について

ーーゴミ屋敷の被害を受けている周辺住民はどのような対応をすべきなのでしょうか?

「行政や周辺住民と緊密に連絡を取るほか、ないかもしれませんね。ゴミ屋敷から受けた実害がどれほどあるかが明確にわからなければいけません。例えば近隣にゴミ屋敷があることで、体調を壊したとしても、病気とゴミ屋敷との因果関係がハッキリとしないと立証は難しいです。公害のように特殊な物質を放出しているという証明がないと不可能でしょう。それを証明するためにお金をかける方が大変になってしまうかもしれません」

ーーゴミ屋敷の住人が叫んでいたり、騒音を出していた場合はどうでしょう?

「民法上の話だと※受忍限度といい、一般的にありえる程度の音であれば認められませんが、大きな音を継続的に出している場合は、損害賠償を請求できることがあります。また、ゴミ屋敷の住人が叫んでいて、それが必要のない行為で、周辺住民が精神的な苦痛を受けた場合も損害賠償を請求できるかもしれません」

ーー身の危険を感じるようなゴミ屋敷の住人がいた場合はどうでしょうか?

「過去に電話をかけ続けたことが傷害罪の刑事事件になったケースがあります。ゴミ屋敷の住人から度重なる嫌がらせの電話などを受けているようなら、程度にもよりますが、刑事事件になる可能性はあります」

行政代執行に基づくゴミの撤去について

「事例としては、2015年に初めて京都市で行政代執行に基づくゴミの撤収が行われました」

ーー以下がその時の記事になります。

“京都市では2014年11月に「京都市不良な生活環境を解消するための支援及び措置に関する条例」が施行され、その条例に基づき行政代執行によって2015年のゴミ屋敷のゴミを撤去しました。

京都市内の集合住宅前に生活ごみが山積みになっていることを受け、京都市は13日朝、「ごみ屋敷」対策の条例を初めて適用し、行政代執行によるごみ撤去を実施しました。

京都市の職員が、袋に入った古新聞を次々と運び出していきます。

この集合住宅の前には、住人の男性が幅1.3メートルの私有地に高さ2メートル幅4.4メートルにわたり、古新聞やペットボトルなどの生活ごみを積み上げていて、近隣住民の通行の妨げになっていました。

京都市は6年前に問題を把握し、これまでにおよそ60回にわたり撤去を促してきましたが、これに応じなかったため、行政代執行に踏み切りました。

「非常に狭い通路にごみがあって、奥に住民が住んでおられる。万が一のときには避難できない恐れ。今回この措置に踏み切った。」(京都市保健福祉局 高木博司局長)”

引用:毎日放送
https://web.archive.org/web/20151116102710/http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151113-00000032-mbsnewsv-soci

ーー行政がゴミを撤去するまで6年間もかかり、約60回にもわたりゴミの撤去を促しています。一軒家からゴミを撤去するのには、周辺住民と行政が時間と労力をかけ対応するしかなさそうです。

2018年8月にも神奈川県横須賀市で初の行政代執行に基づいたゴミの撤去が行われました。

横須賀市は2015年7月には近隣住民から苦情の通報を受け、住人の男性に対して、片付けるよう指導を続けていましたが、男性は応じなかったとのこと。また、行政代執行後も男性は庭などに置いてあるゴミを家屋内や車などに移動した可能性があるそうです。市が撤去できるのは、家屋の外にあるゴミだけで、屋内のゴミは他の所有物と区別がつきにくく手が出せないとのこと。

このように一軒家がゴミ屋敷化した場合、行政代執行に基づいてゴミの撤去が行われたとしても、根本的な解決に至らないケースもあります。

ゴミ屋敷の住人やその家族がゴミの撤去に前向きなら、行政にお願いするよりも、専門の業者にお願いしてゴミを撤去してもらった方が早いかもしれませんね。

ゴミの持ち出しに罰則を設けている行政はある

ーーゴミの持ち出しに罰則を設けている行政はあるようですね。

「行政は粗大ゴミなどを集積所から持ち出さないように罰則をつけたようですが、ゴミ屋敷の住人にも若干ですが効果はあるかもしれません。自宅にゴミを収集している人は、粗大ゴミなどをゴミ集積場から持ち出している可能性があるからです」

ーー大阪府の河内長野市には以下のような条例があります。

“ごみ集積場所からの資源ごみや粗大ごみの持ち去り行為は禁止されています
ごみ集積場所に出された資源ごみや、自転車・電化製品などの粗大ごみを市の収集前に持ち去る行為は、条例(河内長野市廃棄物の減量化、資源化及び適正処理等に関する条例第13条の3)により禁止されています。

資源ごみなどを持ち去った場合、行為者には罰則が科せられることがあります。”

引用:http://www.city.kawachinagano.lg.jp/cases/gomi_recycle/gominoshuushuu/1441862744649.html(河内長野市)

薩川先生がゴミ屋敷に関するあったらいいと思う法律について

ーー薩川先生が個人的に成立したらいいと思うゴミ屋敷に関する法律はありますか?

「行政に頼まず、個人間で裁判ができるようになるといいと思います。住環境に対する権利侵害を認めてもらい、ゴミ屋敷から受ける精神的な苦痛を解消できればいいですよね。たとえば、日照権のようなものです。買った土地や建物の周辺にゴミ屋敷があると、土地や建物の値段と価値が下がるため、実質的には財産権の侵害にもなっていると思います。それに基づき、お金の請求だけではなく、ゴミも撤去できるようになればいいですね」

近隣のゴミ屋敷で困っている場合、相談するべき機関について

法的な罰則がほとんどないと言えるゴミ屋敷ですが、お困りの場合は以下のどれに当てはまるかをチェックして、相談する機関を選ぶといいでしょう。場合によっては、2つ以上の機関に相談するのもありだと思います。

警察に相談
・ゴミ屋敷の住人から暴力を受けた(暴行罪・傷害罪)
・ゴミ屋敷の住人からナイフ等で脅された(銃刀法違反・恐喝罪)

行政に相談
・ゴミ屋敷の悪臭や害虫に困っている
・ゴミ屋敷のゴミが道路の上にのっている
・空き家が荒れ放題でゴミ屋敷のようになっている

弁護士に相談
・ゴミ屋敷のゴミが越境して敷地内に入ってきている(所有権の侵害)
・ゴミ屋敷の住人が継続的に騒音を出している(損害賠償請求)
・ゴミ屋敷の住人から電話等で度重なる嫌がらせを受けている(損害賠償請求)

管理会社やオーナーに相談
・アパートやマンションの一室がゴミ部屋になっていて悪臭等の被害を受けている

専門の業者に相談
・ゴミ屋敷の住人やその家族とゴミの撤去について話がついている
・自分の部屋や家にゴミが溢れていて片付けたい

以上のことから、ゴミ屋敷(一軒家)からゴミを撤去するのは、非常に大変なのだと思いました。ゴミ屋敷の住人がゴミの撤去に少しでも前向きであれば、専門の業者に相談するのが一番だと思いますが、そうでない場合は、問題の解決に時間がかかりそうです。

しかし、近隣住民がゴミ屋敷から受ける肉体的、精神的な被害は計り知れないものがあり、一日でも早い解決が望まれます。

薩川智結
LM総合法律事務所 弁護士

教高等学校、立教大学法学部卒業後、立教大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。
平成20年9月弁護士登録。弁護士登録とともに横浜ランドマーク法律事務所にて執務した後、LM総合法律事務所立ち上げ。

教高等学校、立教大学法学部卒業後、立教大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。
平成20年9月弁護士登録。弁護士登録とともに横浜ランドマーク法律事務所にて執務した後、LM総合法律事務所立ち上げ。

ゴミ屋敷片付けの
見積り金額がすぐにわかる!

見積りシミュレーターはこちら